ROSE GARDEN



「ビル、わたくしはアリスの次に貴方の首が欲しいわ」

まるで誕生日におねだりをするように小首を傾げ、にっこりと微笑む少女。柔らかな雰囲気とは正反対に、口から出た言葉は酷く残酷だ。

「またそれですか。いくら女王の頼み事でもそれは聞けませんね」
「まぁ、何故?」
「女王、猫以外は首をはねられると死んでしまうのですよ。広間の死体を見ればお分かりになることでしょう?」
「ふふ、そうね。でもわたくしは貴方の首が欲しいのよ」

はぁ。
ビルは一つため息をついた。

「女王は私が死んでも構わないのですね。悲しいことです」
「あら、悲しいわよ。でも貴方の首が手に入ることの方が嬉しいの」
「とにかく私はまだ死にたくありませんのでね。そんなに首が欲しいならアリスに頼めば良いでしょう」
「アリスには断られたのよ…」

しゅんとうなだれる女王。
まぁ普通ならアリスでなくとも断るだろう、とビルはそっと思った。無茶苦茶を言っているはずなのに、何故かこの女王は人を罪悪感で絡めとる。獲物に巻き付いて離れない薔薇の蔓のように。

「ねぇ、だから貴方の首を頂戴?」

女王は再びにこやかにビルの方を向いた。

「お断りします」

きっぱり首を振るビル。女王は憤懣やる方ないと言った表情だ。この少女はころころと感情を変える。

「もう、どうして貴方もアリスも首を下さらないの!?貴方たちの首ならわたくし、一生大切にしてさしあげてよ!」
「私もアリスも女王が大好きなのですよ。首だけになってお側にいるより、こうして話相手になったり、お茶や散歩のお相手をさせて頂きたいのです」
「舌が二枚あるだけあって口がお上手ね、ビル!わたくし嘘は嫌いなの」
「奇遇ですね、私も同じです」

今度はビルがにっこりと微笑む番だった。女王は暫し考え込んで、持っていた血みどろの鎌をごとりと置いた。

「では、貴方は明日も同じ時間にここに来てくれるのかしら?」
「仰せのままに、陛下」

女王は満足げに笑った。咲き乱れる薔薇よりも綺麗だと、ビルは思った。


(囚われたのは、私かもしれない)