アフタヌーンティー
薄暗い城内に足を踏み入れると、錆びた匂いが体中に纏わりついた。
ビルはまたか、とため息をついた。
本来ならば豪華絢爛、シャンデリアが明るく輝くはずの大広間はさながら地獄絵図。首のない死体が、ただひたすらにごろごろと転がっている。
「ビル!」
花のような可愛らしい声が上から降って来た。見上げると、まさに女王が女中の首を引きずり階段を降りようとしているところだった。女王はビルの姿を認めるや否や、女中の首をぽんと放り出し彼に駆け寄る。哀れな首は寂しそうにころりと転がった。女王はそれに見向きもしない。
「ビル、久し振りね!」
「お久し振りです、女王陛下…前来たよりも更に死体が増えてますね。可哀想に、首を刈るのはお控え下さいとあれほど言ったのに」
「だって貴方がなかなか訪ねて来てくれないんだもの…。だからイライラしてつい首を刈ってしまうのよ。貴方が来ないから悪いんだわ」
ぷい、と拗ねたように横を向く女王。
ビルは苦笑する。子供っぽいな、と思うけれどそんな彼女も可愛いと思ってしまうのだからどうしようもない。
「私だって女王に会いたいのはやまやまですけれど、そう毎日伺えるほど暇ではないのですよ」
「嫌よ!毎日来てくれないと嫌!そうじゃないと、貴方が来なかった日は代わりに誰かの首を刈ることにするわよ!」
「そんなこと仰らず」
全く、薔薇の蕾のような唇で、何と物騒な言葉を紡ぐのか。
「僭越ながら、陛下が私の元へお越し下さればお茶くらいお出ししますが」
「だって、貴方はわたくしが訪ねたっていつも小難しい本ばかり読んでいてつまらないんだもの…」
「陽の当たる暖かいテラスで紅茶を楽しみながらのんびりと読書…素晴らしく優雅ではありませんか?幸い、私の書庫には陛下のお好きそうな詩集などもありますし」
私などは考えただけで午後へと気分が浮き立ちますが、とビルは微笑んだ。
女王は少し考えて、
「そうね…それは、素敵かもしれないわ」
と言った。
「それじゃあ、明日から毎日通わせて頂くわ。覚悟しておくことね!」
(おや、大変だ)
(今日中に彼女の為に詩集を買いに行かなくては!)
今度、アリスに少女というものはどんな本を好むのか聞いてみることにしよう。
ビルはそっと笑った。