脱線
もうレールは動かないというのに。
俺達は駅で列車を待っている。列車は時代の流れ。運転士は支配者。列車が来たら乗るも乗らないも自分の自由である。それ位の自由は保証されている。
しかし列車に立ち向かう自由はない。
高杉は駅ごと吹っ飛ばそうとしているし、俺は今はホームに上がってベンチに座り、新聞を読んでいる。
君だけがあの日のまま、線路に座ってレールの向きを変えようと一人戦っている。手を血に染めながら、腐って動かぬレールを何とか動かそうと。
ガリガリと響く音に皆が聞こえないフリ
君は弱音も吐かず諦めもせずいつかレールを動かせる事を信じて頑張っている。
俺は何も見ないフリ
聞こえないフリ
“痛々しい”
痛々しいのは君の姿か俺の心か
酷いね、俺はホームの上から君を見下ろしているだけなのに君は下心なく笑いかけてくれるんだね
“ねぇ、列車が来るから危ないよ”
なんて
白線の内側にいる俺が言えるはずもない