17才の大罪
しゃわしゃわと。
蝉の声が煩く降り注ぐ。
それを聞いていると、俺の頭はおかしくなっていく。思考能力は麻痺、何も考えられないし指の一本も動かしたくない。
何よりクソ暑い。
汗と血と泥と埃にまみれ、脂ののった剣を振り回す内にみんな眼は虚ろになるし腹は減るし。自分でも何でこんな事やってんのか分からなくなって来た処に、蝉の大合唱だ。まるで魂抜かれそうな。もうやる気も何もねぇ、少なくとも俺は理性なんて吹っ飛んで、眼の前にいる、取り敢えず俺らと同じ種族じゃないものをぶった斬ってるだけだ。斬った瞬間は確かにほんの少し爽快感が得られるものの、その直後に飛んでくる大量の血飛沫に全部台無し。また剣が血を吸って重くなる。服も、髪も。それが赤とは限らなかったり、必要以上にドロドロしてるともう最悪だ。
あー、ホント何でこんな事やってるんだろう、俺は。
「銀時!」
桂が駆け寄って来た。彼も、自分の周りは粗方殺し尽くしてしまったようだ。
桂の顔や衣服も、俺と同じように色んな色の液体で汚れてしまっていた。それを見て、何だかお揃いだとか気持ち悪い事を考える自分がいる。
相変わらず、しゃわしゃわと頭に響く煩い鳴き声。何をそんなに慟哭する必要がある?お前等も仲間を失ったか?
俺の脳は、とろとろ融けていく。
俺は桂をじっと見つめた。幼い頃、一番後ろの席からぼんやり眺めた高いポニーテール。こいつ以上に黒くて真っ直ぐで美しい髪を、俺は他に知らなかった。いや、今も知らない。その髪も、今は流石に汗と埃で絡まり元の艶を失っている。白い頬には土と血がこびり付いて見る影もない。変わらないのは、その強すぎる眼の光だけだ。
それでも俺は桂を綺麗だと思った。
「桂ァ、何人殺した?」
「そんなの覚えてられる訳ないだろう」
「はは、俺も」
「覚えておく必要もない」
吐き捨てるように言うと、彼は俺の方に向き直り怪我はないか?と尋ねた。どうせ俺はいつも怪我なんかしないのでああ、と言って頷いた。そうして気紛れに、本当に何の気なしに聞き返したのだ。
「お前は?怪我してねーか?」
そう言った瞬間、桂はフリーズしたようだった。俺は何だか少し慌てる。え、俺何か変な事言った?聞き返しただけだよな?そう言えばいつも適当な返事をするだけで、聞き返すのは初めてだけど。
「ああ、俺も大丈夫だ」
暫くして幾分上擦った口調で返す桂は、何故か俯いて頬を染めて。それを見ていたらこれまた何故か俺まで頬が熱くなって。
「心配してくれてありがとう」
そう言って顔を上げて微笑んだ桂は、今まで俺が見た中で一番綺麗だった。
日常はぐらりと歪む。
何だろう、相変わらず蝉は煩く鳴いているというのに、頭の隅が水を打ったようにしんと静かだ。そうして、脳だけは透き通っているのに身体は酷く熱い。俺はその熱い指先を桂に伸ばして、俺より少しだけ小さい身体を抱き締めた。彼の背中には、まるで石榴を踏み潰して来たような真っ赤な道が広がっている。この痩躯が切り開いてきた道が。
桂も、おずおずと、そのひとをころした指先を俺の背中に回した。その割にあったかい指先だった。
俺の背中にも同様に赤い道が広がっていることだろう。桂は今、それをどんな気持ちで見ている?
多分俺と同じ気持ちだろう。
何とも思わない。
俺達は十七にして人を殺しすぎた。
この腕に到底抱えきれないほどの人数を殺してきた。その腕で、平気で人を愛そうと言うのだ。
嗚呼、何て烏滸がましく恥知らずなんだろう。
それでも俺は、神様なんて知らない俺は血に染まった指で桂の髪を梳き頬をなぞる。どうせどちらも血を浴びているのだ、後は混ざって汚く濁るだけ。
愛していると呟いた声は、蝉の鳴き声に呆気なくかき消された。