優しい君


ね、本当は分かってるんでしょ?

十代目の口調は優しかったが首を振ることを許さなかった。

俺は勉強も出来ないしスポーツも出来ないし押しにも弱い、君が思ってるような素晴らしい十代目じゃないんだよ。君はそれでも俺を良い方に良い方にと解釈してくれるけどそんなことないんだよ。俺は駄目な人間なの。君の方が勉強も出来るし運動神経もいいのは事実なんだよ。優しい?それ、取り柄なの?俺、この性格で得したことなんかないよ。獄寺くんさ、もう俺を変に崇めるのやめてくれないかな。余計自分が駄目って分かって悲しくなるし。こうやって勉強とか教えてくれるのはすっごい感謝してる。ほんとに助かる。でもね、「本当は出来る」とかそんなのないんだよ。今まで14年間も生きて来て出来なかったことが、出来るようになる訳ないじゃない。ごめんね、せっかく獄寺くんが思ってくれてるのに水を差すようなこと言っちゃってさ。真に正反対なのは君と山本じゃなくて、俺と獄寺くんなのかもしれないね。



言いたいことはたくさんあった。俺が勉強や運動出来るのは小さい頃から教育を施されたからに過ぎませんとか、優しいのは立派な取り柄ですとか、でもそれら全部、胸にうずまく内はこんなに熱いのに口に出すと急に温度を失う気がして何も言えなかった。だから一番大切なことだけ言った。

「だって十代目、俺を助けてくれたじゃないですか」

それだけであなたは素晴らしいじゃないですか。勉強なんて詰め込みです。後からいくらでも出来るようになるんです。でもあなたは優しいじゃないですか。俺はあなたのようにはなれない。優しくて損をするのは相手が得をするから。でも十代目、その損した分、絶対いつか返って来ますよ。十代目、あなたが唯一持っていないのが自信なのですね。今まで己を否定して生きてきた仇なのですね。


「…俺が自信を持つなんて」


笑われるだけじゃないか。
誰よりも素晴らしい彼は、そう言って寂しそうに笑った。