ある夏の日の教室
少女が一人、暑さで揺らぐ教室の中、少年がもう一人。
「あつーい」
「…獄寺」
「もうだめだー死ぬー」
「…獄寺」
「灼熱地獄だー」
「獄寺ってば!」
「何だよ俺は今不機嫌だぞ。暑いから」
「いや、あのさ、気になるんだけど」
「何が?」
「お前、ボタン開けすぎなんだよ!暑いのは分かるけど、もうちょっと…こう…自分を大切にしろよ!」
「はぁ?意味分かんねーよ」
「あのね!俺も男なの!分かってる?」
「分かってるよ」
「分かってるならもっと危機感持てよ!」
「大丈夫、許可なく手出したらお前と絶交するから」
「……」
アノ、俺、オ前ノ彼氏デスヨネ?
少年はがっくりとうなだれた。少女はどこ吹く風で、ぱたぱたと下敷きをうちわにして扇いでいる。
少年は情けなく上目遣いで少女を見上げると、決心したように口を開いた。
「じゃ、じゃあ手出させて下さい!許可下さい!」
「何言ってんだよ死ね」
「…じゃあちゅーだけでも…」
「……」
「おねがい!おねがいします!」
「…1回だけな」
「マジで!やったー!」
「さっさとしろよ」
「うん、じゃ目つぶって」
「はいはい」
少年は少女の睫の長さに一瞬見とれながらも、いけない彼女の気が変わらないうちにと(何しろ女というものはジェットコースターのような速さで気分が変わるものなのだ)、その赤い唇に自分のそれを重ねようとしたその時。
「ちょっと何やってるの!」
がらりと教室の扉が開いて、女だてらに不良の頂点かつ風紀委員長である雲雀が顔を出した。
「げっ雲雀!」
「不純異性間交遊は禁止だよ。全く見回りに来てみれば油断も隙もない…山本!君は後で咬み殺すからそのつもりで。隼人!何なのそのシャツ。ちゃんと前閉めないからこんな風に襲われるんじゃない!」
「襲ってない!許可とったぞ!」
「山本は黙ってて。それとも今咬み殺されたい訳?」
「……」
「ほら、隼人ボタン閉めて…あ、これ僕があげたブラじゃない!つけてくれてるんだね、よく似合ってるよ」
「だろ?可愛いから見せてるんだよ」
「駄目だよ、確かに可愛いけどそういうのは僕の前でしか見せちゃ駄目!」
「…ちょっとちょっと!黙って聞いてれば何その会話!獄寺、お前雲雀とどういう関係な訳!?」
「彼女。」
「はぁぁ!?じゃあ俺は!?」
「彼氏。」
「おかしいだろそれー!!」
「そうだよね君が隼人の彼氏だなんておかしいよね。隼人は僕の彼女だよ」
「違う!おかしいのはそこ違う!」
「おかしくないよ。だって俺、どっちも好きだもん。」
せっかく手が2本あるんだから、どっちも好きな人と繋がってないと勿体ないじゃん、ね?1人だけなんてさぁ。
少女が2人の手を握ってにっこり笑うと、それだけで2人はもう何も言えなくなるのだった。
(それでは、せっかく2つあるほっぺたに両側からキスをどうぞ)
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