秘密
ハルは今好きな人のお家にお邪魔させて頂いてます。みんなで勉強会をしているのです。不肖ハル、ツナさんのお役に立てて嬉しいです!
…と言いたい所ですが、事ある毎にハルに突っかかってくる人が一人…。
獄寺隼人さん。
中学生のくせに煙草吸うし、ツナさんの右腕になるとか言ってハルをライバル視してくる、正直鬱陶しい人です。
「おいアホ女、十代目には俺が教えて差し上げるから、お前はこの野球馬鹿を教えてろ」
「はひー!何でですか!ハルだってツナさんに教えて差し上げたいんですけど!」
「うるさいアホ女。十代目の右腕は俺だ!これも右腕の役目だ!」
「何言ってるんですか!ハルは将来ツナさんのお嫁さんになるんです!だから勉強だってハルが教えます!」
「ふ、二人とも落ち着いて…君ら二人が喧嘩してたら教えてくれる人がいなくなっちゃうよ…」
「す、すみません十代目…!ほら、てめーのせいだぞアホ女!」
「そうやってすぐ人のせいにする!最初に突っかかって来たのはそっちじゃないですか!大体ハルはアホじゃありません!」
「なー獄寺ぁ、俺にも教えてくれよー。将来俺のお嫁さんになるだろ?」
「黙れバカ本。お前に割く無駄な時間は一秒たりともない」
「………うっ…うっ…」
哀れな山本さんは部屋の隅でどんよりうずくまってしまいました。薄情な獄寺さんは見向きもしません。
ツナさんは「また飛び降りなきゃいいけど…」と呟いたあと(何の事でしょう?)、「何か飲み物持って来るね」と立ち上がって行ってしまいました。
気まずい沈黙。
ちらりと獄寺さんを見ると、ツナさんの問題集を見て解答や解き方をチェックしていました。私達が喧嘩してたせいであまり進んでなかったようで、さっと見終わると山本さんのも見ていました。何だかんだで、獄寺さんは結構面倒見が良いようです。
…はっ、何を考えてるんでしょうハルは!こんな人のことを、一瞬でもいい人だと思うなんて!
一人あたふたしてしまってもう一度獄寺さんをちらりと見ました。問題集と向き合う獄寺さんは、ハルの見たことない真面目な顔をしていました。いつもハルと顔を合わせると喧嘩ばかりするから、そんな顔は見たことなかったのです。
そう言えば、前ツナさんが「獄寺君は昔お城に住んでたんだって」と言ってました。確かに、今目の前にいる、口を引き結んだ獄寺さんは気品すら漂っています。いつも煩く騒いでいるからみんな気付かないんですね。
(いつも口を閉じてればいいのに)
「おい、何ださっきから人の顔じろじろ見やがって」
「べべべ別に、何もないですよ!」
「……ふーん」
変な奴、と聞き捨てならない台詞を吐いて獄寺さんはまた問題集に目を落としました。仄かに香る香水、頬にかかるサラリとした髪、影をつくる長い睫。でも、
(きれいな、ひと)
だなんて。
その端正な横顔に一瞬ドキッとしただなんて、死んでも言ってやらないのです。