白と黒と赤
暗い路地裏で、そぐわぬ銀髪を見つけた。
彼は血まみれで血溜まりに倒れていた。
一瞬死んでるのかと思ったがどうやら違うらしい。彼の身体には何ら外傷がないのだ。という事はどう考えてもこれは返り血、彼自身の血じゃない。じゃあ何で倒れてるんだ。
「ねえ、何で寝てんの」
彼はゆっくりと身体を起こした。そして僕を睨み付ける。彼のあらゆる所から血がぽたぽた垂れた。まるで水が滴るように。血とはこんなに軽いものだったか?もっと粘質のものではなかったか?
「うるせぇよ」
ぞくり。
何かが背中を駆け上った。
ああ、君のそんな眼は初めて見たよ、そんなぎらぎらした血にまみれた眼は。こんな弱くて綺麗じゃないやつらの汚い血でも、君の顔に跳ねるだけでこんなに綺麗になるんだね。
「君お得意のダイナマイトが湿気ちゃうんじゃない?」
「余計なお世話だ」
「凄い匂いだね、鉄くさい」
「……」
「君いつもこんなことしてんの?」
「…うるせぇ。てめーには関係ねぇ」
「君って人は他人を排除する言葉しか言えないわけ?」
「お前が言える台詞か?いいからさっさとどっか行けよ。見なかった事にしろ」
「やだ」
「…いい加減にしろよ」
「『一般人』の僕には関係ないって言いたいんでしょ?」
彼は眼を見開いた。
普段あれだけ騒いでいて、マフィアだと僕にバレていなかったとでも思っていたのだろうか。全くもっておめでたい。そんなおめでたさで君はよく生き残って来れたね?僕よりも弱いくせにさ。マフィアの世界なんてのは知らないし興味もないけれど。
「赤ん坊から色々聞いてるんだよ」
僕はにっこり笑う。
彼は面白くなさそうに眼を閉じ嘆息する。
「君そんな血みどろでどこに行けるの?これどうやって片付けるの?君が一般人の僕を巻き込みたくないと心配してくれるのは嬉しいけどさぁ」
「はぁ!?誰もてめーの心配なんかしてねぇよ気持ち悪い!!」
「ね、だからこれ、片付けてあげる」
「は…」
「着替えも持って来てあげる。君の望む所まで安全に送ってあげる」
彼は完璧に「意味が分からない」という顔で僕を見ている。そりゃあそうだろう。
「何言ってんだ…てめーに借りなんて作らせてたまるか」
「いいんだよ。僕は君にたくさん貸しを作る。君は僕にたくさん借りを作る。そうして、」
一拍置いて、僕はただにっこり笑う。
「君は僕から離れられなくなる。」