悲鳴が聞こえた。


投げた手裏剣はどうやら命中した様だ。
(外れる方が少ないのだが)
それは既にごく当たり前のこと。驕ることも悲しむこともせず。私が手裏剣を投げれば相手が血を流し呻き声を上げるのは当然の帰結なのだ。

最初は、自分のせいでひとに一筋でも血を流させるのが怖かった。刀を構えるだけで持つ手が震えた。
それが今やどうだろう、練習用の木の的に当てる様に冷酷に手裏剣を投げる。まるで木から人に変わっただけだろう、とでも言うように。
何時の間に。
何時の間に私はこんな人間になったのだろうか。
人を殺した夜だって平気で眠れる。
こころも痛まない。
欠けていく。
消えていく。


――痛覚。


(ああ、怪我を、)
(いいえ、私の血ではありませんから。ご心配なく)

こんな会話を繰り返す度。
誰かの温かな手が自分に触れる度に思い出す、ズキズキと痛む、最後のこころ。
これが痛みを失った時、私はひとじゃなくなってしまう。
怖い。
怖い。
そう思いながら、私は今日も忙しく仕事に出掛けるのだけど。


腕の横を、音もなく手裏剣が通り過ぎた。一拍置いて、赤い液体がとろりと溢れ出る。攻撃された。やり返せ。やり返せ。頭の中で声が喚く。その声に逆らわず、飛んできた方に手裏剣を打ち返す。


悲鳴が聞こえた。



(こえをあげたのはだれ)