アルメリア





幼少の頃から、自分が人より力を持っていることには薄々気付いていた。力の加減を知らない私のせいで、両親は何度頭を下げたか知らない。両親の背中を見て、その度に申し訳なく思った。それでも両親は私を愛してくれ、お前のそれは才能だから善く使いなさいと言って私を忍術学園にいれた。
そこで多少の加減は覚えたものの、私は自分の力を未だに抑えかねている。
私が壊した備品は数知れず。文次郎には予算会議の度に怒られるし、いつも修繕をしてくれる留三郎には本当に申し訳ないと思っている。一度修繕を手伝ったのだが、手先の器用さを必要とする繊細な作業は無骨な私にはとても難しい仕事だった。修繕どころかますます留三郎の負担を増やす結果となり、彼に苦笑混じりに悪いが手伝わないでくれ、と言われてはすごすご引き下がる他なかった。

こういう風に、簡単にものを壊してしまう私は、人への接し方を知らない。愚かな幼い自分は、たくさんの友人を傷付けた。私の戯れは、他人にとって攻撃となってしまう。優しい友人が、お前に悪気はないんだから怒ってないよ、と私を許す度いっそ怒鳴りつけて縁を切ってくれたらいいのにと思った。そして、いつしか人に触れるのも恐ろしくなってしまったのだ。

同年代の友人にさえそうなのに、どうしてあの子に触れることが出来るだろう?
触れただけで壊してしまうに決まっている。


「七松先輩。」
「…滝ちゃん、」
「珍しいですね、委員会が中止なんて。体調でも優れませんか?」

何とは無しに木の下でぼんやり空を眺めていたら、滝夜叉丸がやってきて私の横にちょこんと腰をかけた。
大きな目が心配そうにこちらを見つめてくるので、大丈夫だよと笑うと彼女もほっとしたように笑ってくれた。その顔がかわいらしくて、少し気持ちが軽くなる。

女の子はよく花に例えられるけれど、ほんとにその通りだと思う。かわいくて綺麗でいい匂いがして、細っこくて。私なんかが扱えばきっとすぐ折れてしまうだろう。
どうして私は同室の友人のように丁寧にものを扱えないのだろう。どうして私は直せもしない癖に何でもすぐ壊してしまうのだろう。どうして好きな人を抱きしめるのさえ躊躇わなければいけないのだろう。
彼女の綺麗な髪を梳きたい。柔らかそうな頬に触れたい。たったそれだけの想いが、叶わない。
…両親は、正しく使えと言ってくれたけれど。

「どうして私は人を傷つける道を選んでしまったんだろうね…」

呟いて膝に顔をうずめた。
時々どうしようもない罪悪感に苛まれるのだ。私の選んだ道は間違いだったんじゃないのか、と。
両親や、今まで傷つけてしまった人たちや、ふがいない自分。考えると悲しくて悲しくて。普通でいいのに、と何度思ったか分からない。

ふと、手が温かいものに包まれた。
見ると、滝夜叉丸が私の手を握っているのだった。真剣な目をして、まっすぐこちらを見つめている。

「先輩、違いますよ。忍者は確かに人を傷つけますけど、それは大事なものを守る為なんです。ただ傷つけるのとは違う。ですから先輩は、そのお力を誰かを守る為に使われたらいいんです」
「…滝夜叉丸…」

滝夜叉丸は手を離すと、私の正面に回り込みぎゅっと抱き着いてきた。
私がどうしたらいいか分からなくてもたついていると、滝夜叉丸は私を見上げ悪戯っぽく笑う。

「ほら先輩、女の子が抱きついてるってのに何やってるんですか。先輩も同じようにぎゅってして下さい」

そう言われて、戸惑いながらも彼女の背に手を回す。
もっと強く、もっと、と言われるままに恐々力を込めていくと、滝夜叉丸は幸せそうにため息をついた。

「滝ちゃん…痛くない?」
「ふふ、私そんなに柔じゃありませんよ。先輩に守られてるみたいですごく安心します」
「そうかな」
「そうです」

艶めいた黒髪が、白く柔らかな肌が、瞬きをする度に揺れる睫毛が。私の望んだものがすぐ傍にある。触れられるほど近くに。
彼女は柔じゃないと言ったけれど、私にとっては折れそうなほど華奢な体を、愛おしいと思った。心から大事だと。

ねえ、君がこの力を許すなら、誰かを守る為に使えと言うのなら。



(私はこの花を守ろう)