sigh
善法寺伊作が医務室の当番を終え部屋に戻ると、同室の友人が部屋の床板という床板を全てひっくり返していた。
予想もしていなかった光景に口をぽかんと開けて佇んでいると、友人が床下から泥だらけの顔を覗かせ、まるでいつも通りの口調で「お帰り!」と言ってにこっと笑った。
「何やってるの!?」
伊作が叫んだのは至極当然だろう。
だが同室の友人――食満留三郎は何って、と真面目な顔をして答えた。
「お前、よく躓いてすっ転んでるじゃないか。何もないところでよく転ぶなぁと思っていたけど、あとで調べたら僅かな段差があった。だから、学園全体はさすがに無理だけどこの部屋の中だけでも段差をなくそうと思ってさ。今床板を嵌め直してる途中なんだ。悪いけどもう少し待っててくれよ」
そう言うと彼はまた床下へと姿を消す。
伊作が何も言えないでいると、「あ、それから」とひょこっと顔を出した。
「お前がこないだ指に刺さしたあの箪笥、あれもちょっと削って磨いといたから、もう平気だぞ」
ああ、彼は本気だ。
伊作は思った。
そうだ、留三郎は冗談なんか滅多に言わないんだもの。ぼくのために泥だらけになって、こんなに必死に。
自分の頬が緩むのが分かったが、止められなかった。
荷物を放り出して床下へ降り、真っ黒な彼に飛びつく。
留三郎は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を返した。
(留、大好きだよ!)
(知ってる、)
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段差がなくなったらなくなったで、伊作は滑って転びます。