赤い小箱






余りにも真っ赤だから、自分の目がおかしくなったかと思った。
それくらい赤い視界だった。
とっさに大丈夫か、なんて言おうとしてやめた。大丈夫じゃないのなんて分かり切っている。だから「大丈夫だ、すぐ助けるからな、」と真っ赤な嘘をついた。
食満は何か言おうとしたようだったが弱々しく微笑んだだけだった。
それを見て、俺の心臓は鼓動を速め、胸を痛くする。どこが心臓だか分からなくなるくらい胸が肺が肋骨が痛い。いや、痛いのは俺よりも彼だろう。わずかな笑顔を浮かべながらも口元は歪んでいるのだから。
ひとの体内ってこんなに血が入ってたっけ、と思った。真っ赤な部屋はどこからが彼の血なのかも判別させない。
彼の瞼がゆっくりと落ちては開き、落ちては開きを繰り返す。
「なぁ、寝るなよ、食満、起きてろよ」
俺は彼を眠らせないよう必死で話しかける。
「食満、返事しろよ、寝るなよ」
「…、」
「食満、聞いてるか?」
「…うん」
「よし、ちょっと待ってろよ」
急いで服を裂き、止血をする。これだけ流れ出ているくせに、まだ外に出ようとする血液の図々しさには呆れ果てるばかりだ。
血の気を失って真っ白な手が、俺の袖をくいっと引っ張った。


「…文次郎、眠いよう」


――嗚呼、これは彼が俺に言う最初で最後の我が儘であろう。
俺はそれすら聞いてやれないのだと思うと、情けなさや悲しみや怒りや色んなものがごちゃまぜになって、それらは双眸という二つの出口からぼたぼたとただ流れ落ちるばかりだった。