恋の音




どくんどくんと心臓の音。

元来マイペースと言われ、自分でもおっとりしてる方だとは思うが、流石に敵に囲まれて落ち着き払っていられるほど私は経験豊かじゃない。
実戦訓練を少し甘く見ていた、と言うか。私が上級生の中で一番の信頼を置いている立花仙蔵先輩とペアを組んだ為、大丈夫だろうと油断してしまったのだ。
先輩も呆れているかしら。
自分の情けなさに腹が立つ。

「…先輩、本当にすみません」
「謝るな、気にしてなどいないさ。私が気を緩めたんだ」

それより、もう少しこちらに寄れと言って先輩は私を抱き寄せた。
不覚にも胸が高鳴る。
駄目だってば、今は実戦中だと言うのに。嬉しいなんて思ってる場合じゃない。
でも高鳴るものは高鳴るのだ。
どくん、どくん。

(おや?)

ふと、私は自分のものではない心臓の音に気付いた。
先輩の胸に耳を寄せる。
とくん、とくんと。
先輩の心臓も鳴っている。

「…先輩でも緊張するのですか?」

私が尋ねると、先輩は決まり悪そうに少し頬を染めた。

「いつもはそんなことないんだが…、今日はお前がいるから、」

珍しく歯切れの悪い先輩に首を傾げる。
そんな私を見て先輩は苦笑した。


「つまり私とて人並みに見栄を張ると言うことだ。お前を守りたいとな」


それを聞いて、体中の血液が一気に顔に集まるのを感じた。先輩も慣れないことを言って恥ずかしいのだろう、さっきより益々顔が赤い。
嗚呼、先輩も私と同じ気持ちだったと思っていいのかしら。期待していいのかしら?

「せんぱ、」
「お喋りはこれくらいにして。ついて来い、突破するぞ」
「はいっ」

どくん、どくん。
同じ鼓動でも先程と違う。
嬉しい、嬉しいと叫んでいる。
このひとと一緒なら私はへいき。


私は一つ深呼吸をして、先輩の背中を追った。