天才は笑う




砂利、と後ろで足音がした。
見なくても分かる。
このところずっとだもの。
私の手裏剣の練習の妨げになる人。


「毎日毎日よくやるね、滝」
「邪魔するなら帰って下さい」

私が睨むと、その人――鉢屋三郎は「怖いねぇ」と笑った。

「どうして百枚中九十九枚で満足しないんだい?それだけ当たれば充分だろう」
「ダメです。百枚中百枚当たらないと。完璧じゃないのは嫌いです。もしかしたらその一枚が明暗を分けるかもしれないんですよ」
「そりゃあそうだけどさぁ」

先輩は面倒くさそうに頭をかくと、すたすたと近寄り私をぎゅっと抱き締めた。
突然で言葉も出ない。

「…汗と土と血の臭い」

先輩が耳元でポソリと呟く。

「滝はこんなに頑張ってるのにねぇ。その努力を誰も見てない。分かってくれない。酷いよねぇ。悲しいねぇ」

その言葉と頭を優しく撫でる手に思わず絆されそうになり、眼をキツく閉じて先輩を突き飛ばす。

先輩は相変わらずニヤニヤと笑っていた。

「やめて下さい。私は別にこのままで良いんです」
「努力も、天才のフリもいい加減やめたら?楽になるよ」
「余計なお世話です」

私がくるりと後ろを向いてしまうと、先輩は殊更楽しそうに声を立てる。
不快な声。
気分がザワつく。

「…自信なんて無いクセに」


鋭い音がして、さっきまで先輩が立っていた所に手裏剣が突き刺さった。
上級生に喧嘩を売るなんて。
頭のどこかで冷静な自分が非難する。
その一方でやれ、叫べと喚く自分もいる。

「アハハ、ほら百発百中だね、滝!」

愉快犯は塀の向こうへ消える。
私はその後ろ姿に向かって叫んだ。


「アンタなんか大っ嫌いだ!!」


悔し紛れに投げた最後の一枚は、的から大きく逸れ情けない音を立てて落ちた。