楽屋裏
楽屋のドアが開いたので伊作がそちらを見遣ると、薔薇の花束が入って来た。
否、薔薇を抱えた仙蔵が入って来た。
「お疲れ、仙蔵。今日も成功だったね」
にこりと笑って労いの言葉をかけると、仙蔵は少し複雑そうな顔をする。
「文次郎のバカがミスをしなければ完璧だったんだが」
そう言い終わるのと同時、バタンとドアが開き「違う!」と喚きながら文次郎が入って来た。
「最初に食満のアホがミスしたから俺と合わなくなったんだ!文句言うなら食満に言えよ!」
文次郎がそう言えば後ろから不機嫌そうな食満が入って来る。
「自分のミスを人のせいにする気か」
「お前のせいなんだよ!」
二人の喧嘩をよそに、長次はいつも通り寡黙にタオルで汗を拭いていた。
それを見て、伊作は慌てて仙蔵にタオルを渡す。仙蔵は礼を言って受け取ると、ごしごし顔を擦り始めた。
「ちょっと仙蔵、メイク取れちゃうよ」
「落とす手間が省けていい」
「そんなこと言ったって…出口でファンの子がいっぱい待ってるのに」
「汗まみれの顔を晒すよりマシだ」
そりゃそうだけど、と言って伊作は黙る。確かに早くメイクを落としたい気持ちも分かる。それに仙蔵はすっぴんでもムカつくくらい綺麗なのだ。自分でもそれが分かっているから平気で素顔を晒すのだろう。
ひとしきり食満との喧嘩を終えた文次郎はこちらに向き直り、「なぁなぁ、メシ食って帰ろうぜ」と声をかけてきた。
「いいね。久し振りだもんね」
「だろ。食満、お前は来るな」
「黙れ、お前が来るな」
「小学生ですか君たちは」
伊作のツッコミを無視し、第二ラウンドを始める二人。
「付き合ってられん。さっさと帰るぞ」
ちらりと二人を一瞥し、帰り支度を始める仙蔵。長次は喧嘩を黙って見つめている。何を思って見ているのだろうか。
結局喧嘩を止めるのは伊作なのだ。
ため息をつくと、伊作は暴れる二人に一発食らわせるべく握り拳に力を込めた。
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仙蔵ボーカル、こへ太鼓、食満キー、もんじギター、長次ベース、伊作マネージャー