奪われる
「庄左ヱ門、ここ教えてー」
「珍しい、きり丸が勉強なんて」
「土井先生が良い点取らないとバイト辞めさせるって言うからさぁ」
「大変だなぁ」
「全くだよ」
そう言いながらきり丸は横に座るが、何故か少し間を空ける。
「…?教えてあげるからもう少しこっちにおいでよ」
庄左ヱ門は手で招くが、きり丸は「ここでいい」と首を振る。
「でも見えにくいでしょ?」と重ねて聞けば、彼は悪戯っぽく微笑んで言った。
「ここが、俺の心臓奪られない距離なの」
あんまり近付いたら、うるさい音が聞こえちゃうでしょ。
と彼が笑うので、今更のように庄左ヱ門も頬を染めるのだった。
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