大嫌い
嫌いなひとがいる。
五年の先輩。
鉢屋三郎。
変装が上手いんだって。頭も良いし。天才らしい。
聞きたくなくても耳に入って来る、色々な噂。殆どが彼を褒め称えるものだ。
イライラする。
手裏剣の練習場へ行くと、先客がいた。
その人物を見て私はくるりときびすを返すが、運悪く見つかってしまう。
「やぁ、滝夜叉丸」
「…鉢屋先輩」
「お前も練習に来たのか?感心だな」
この人と一緒に練習だなんて真平御免。
私はぶんぶんと首を振った。
「違います。たまたま通りかかっただけですぐに立ち去りますから。先輩はどうぞ気にせず練習を続けて下さい」
そう言って通り過ぎようとすれば、「ちょっと待てよ」と引き止められる。
相変わらずにこにこ笑ったまま、鉢屋先輩はすぅと眼を細めた。
「お前、自分のこと戦輪の腕は学園一とか天才とか言ってるらしいじゃん?」
「事実を言ったまでです」
「それは違うなァ」
「何がですか」
いい加減じれて来て先輩を睨むと、先輩は俺の耳元に唇を寄せた。
「天才は二人いる時点でもう天才じゃなくなるのさ」
俺だけで充分なんだよ。
笑顔と裏腹な、冷えた声。
私が何も言えずにいると、先輩は私の傍からするりと離れた。
「でもさ、滝夜叉丸はほら、戦輪に比べて手裏剣は苦手だから練習しに来たんだろ?戦輪だって今の腕になるまでに死ぬ程努力したこと、俺は知ってるよ。滝夜叉丸は偉いねぇ。大好きだよ」
しゅ、う、さ、い、クン、と笑って先輩は手裏剣を投擲。
無駄な動きのないフォーム、剣は一番離れた的のド真ん中に突き刺さる。
やっぱり私はこの人が嫌いだと思った。
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