最低な男





「伊作の方が良かったな」


嵐のような情事を終えて、コイツが最初に口にしたのはその言葉だった。

はぁ?

一瞬思考停止した俺に畳み掛けるように、この男は次々と言葉をぶつけて来る。

「伊作の方が柔らかいし、胸でかいし。お前、抱き心地悪い。」
「な、」

言いたいことは山程ある。人をほぼ無理やり犯しといて第一声がそれかよとか、つまり伊作ともやったって事かよとか、コイツに果たして心と言うものがあるのかとか。
しかし自己中の最低もここまで来るといっそ清々しい。
と怒るのも忘れて呆れ返ったのだが、次の台詞でプチンとキレる。

「あぁ、でも一番色気があったのは仙蔵かなー。美人だし。胸はなかったけど」

「――お前なぁ、いい加減にしろよ!」

出てけ、と蹴っ飛ばせばいてっと声がして情けない姿で布団から転がり出る文次郎。散らばった服を投げつけてやると、ぶつぶつ言いながらも着始めた。

「俺を抱いといて何で他の女ばっか褒めるんだよ!ホント最っ低だな!」
「何だよ、ホントの事じゃねーか」
「思っても口に出すな!」

腹が立っていよいよ手当たり次第にものを投げつけ始めると、流石に身の危険を感じたのか文次郎は立ち上がりそそくさと出て行こうとする。

そうして戸を閉める直前、ニヤリと笑って告げた。


「でも一番ギャップがあって可愛かったのはお前だな」

「…!」


真っ赤になって言葉も出ない俺を嘲笑うかのように、戸はピシャリと閉まる。

二度と来るな、喉から出かけた捨て台詞を舌の上で転がした。