泣く子
この子は泣かない。
怪我をしても、喧嘩しても、みんなで飼っていた動物が死んでしまった時も泣かなかった。
最初は我慢しているのかと思ったけど、どうやらそうじゃないみたいなのだ。
「…お前くらいの年齢の子供は泣いて育つものだ…」
「じゃあ先輩も俺くらいの時にはもっと喋って泣いたりしてたの?」
「…多分」
「多分って…」
変な先輩、と彼は笑う。
そう、笑うのに。
何故泣かない?
だって、悲しくないんだもの。
「いや、絶対的には悲しいんだけど。俺は多分一番辛くて悲しいことを知っているから、相対的に考えればこんなの全然悲しくないんです」
ああ成る程、きっとこうやって彼は無意識に悲しいことを避けて来たのだろう。
そうだ、確かにそれに比べれば悲しいことなど何もない、でも。
長次はこの間出来た腕の傷を、服の布越しにそっと触った。この時は危なかった、もう少しで腕を落とされる処だった。
運良くこうして二人日向ぼっこなんてしてるけれど、もしかしたらこの子を抱く腕がなくなっていたかもしれないのだ。
少し、怖い。
私が死んでも。
(君は泣いてはくれないのだろうか)
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