同情?




戸を開けて、仙蔵は嘆息した。
日に日に酷くなっていく室内。男の臭い。食満は布団を頭からひっ被っている。

「食満」

声をかけると、布団がびくりと震えた。
怯えさせない様ゆっくり布団を捲れば、青ざめた顔の食満と眼が合う。

「大丈夫か?お湯はまだか?まだなら一緒に浴びに行こう」

こくりと頷くと、彼女はのろのろと床から這い出した。白い夜着は乱れ、血らしきものが所々に付着している。仙蔵は眼を逸らして彼女の夜着を整えた。
(卑怯だ)
(済まない)
優しくしているようで、こんなの本当に彼女を救えている訳じゃないと分かってる。でも他に何も出来ないんだ。せめてこれだけでも。

「…う、」

食満が突然口元を抑えて座り込んだ。
彼女は文次郎に抱かれた後よく吐いた。仙蔵が水を差し出すと、震える手でそれを受け取り、飲み干す。
どうやら吐き気は少し治まったらしい。
仙蔵は彼女のつめたい身体を暖めようと、背中をさすった。

「…しにたい」

食満がポツリと呟く。
涙の跡はあれど、その眼は乾いていた。
仙蔵は彼女をぎゅっと抱き締める。

「そんなこと言うな」

腕に抱いた食満の身体は想像していたよりずっと細かった。自分より大きくてしっかりしてると思っていたから。
ああ、彼女もひとりの女であるのに。
こんなに怯えてこんなに弱くなってしまうまで気付かなかった。
もう限界だろう。
助けてと叫べば良いのに。

プライドを崩すくらいならきみは死ぬと言うの?

仙蔵には彼女のプライドを守ることも彼女を助けることも出来ない。
この、慰めすら、



(なんのいみもない)