迷路




「滝、潮江先輩と寝たってほんと?」


人が寝ようとしている所に無遠慮にずかずかと踏み込んで来たのは三木ヱ門だ。
よりによって何でコイツの耳に。
私は布団に潜り込んだまま背を丸める。

あんなの情事だなんて言うものか。無理矢理奪い去られただけだ。
思い出したくもない。

私の無言を肯定だと受け取り、三木ヱ門は身を乗り出す。

「何でだよ!お前、私の気持ち知ってただろ!知ってて寝取るようなそんな最低な奴だと思わなかった!」
「…違う、」
「何が違うんだよ!」

私は黙って唇を噛み締めた。
彼女は潮江先輩の本性を知らないから、委員会で接するままの優しい先輩だと思ってるから、そんな彼女の恋心をぶち壊す訳にはいかないから。
それに潮江先輩を信じ切ってる三木ヱ門には、例え私が彼にどんな酷い事をされたか一から全部説明したって信じて貰えないかもしれない。

本当は全部ぶちまけたい、アイツなんて大っ嫌いだ、最低だ、死んでしまえ!
でもそれは駄目、絶対駄目だ。


「滝、聞いてるの?返事してよ」

三木ヱ門が私を覗き込んだ。
唐突にフラッシュバック。
(喋ったら)
(三木をお前と同じ目に合わせるからな)
(友達なんだろ?)
やめてよ、覗かないでよ、責めないでよ。
何でなんてこっちが聞きたい。
もう嫌。
私ばっかり。


眼の前の彼女が滲む。

「…滝?泣いてるの…?」

彼女は少し眼を見開き、困った顔をした。泣きたいのはこっちだよ、と言う風に。
私は未だ彼女に返す言葉を知らない。




(どうしたらいいの)







下の話の続きです