入水願い




右手にナイフ、左手に花束。


「どっちがいい?」と選ばせる方も選ばせる方だが、「ナイフ」と答える方も答える方だ。

「三郎は変な子だねぇ」
「そうかなぁ」
「分かってるの?三郎、僕がナイフを持っているという事はこれで君を刺すかも知れないということだよ」
「雷蔵こそ分かってるの?花束っていうのはもうすぐ死ぬ花の集まりなんだよ。そんなの俺はいらない」
「む、」
「水があるから少しは生きてられるけどさ。あれ、ってことは人間も足を切り落として鮮血の中に浸しておいたら少しは生きられるのかな?試してみよっか」
「人間は血液を吸い上げる事が出来ないから無理じゃないかなぁ」
「あ、そっか」
「これがナイフで殺した花束なら」
「右手に凶器、左手に死体ってことだね。結局どっちを選んでも一緒だ」
「さっすが三郎」
「雷蔵の考える事くらい分かるよ」
「じゃあ僕がナイフなら」
「俺は花束だ」

やっぱり三郎は変な子だね、と僕は笑う。花束でいいなんて。僕に殺されちゃっても良いの?

そう言うと、三郎は僕らしくない笑顔でニヤリと笑い返した。

「だから最初に言っただろ?俺は花束だからナイフが欲しいのさ」






(…どうぞ殺って!)