小さな恋人
放課後の図書室。
きり丸は本と格闘していた。
正確に言えば、本の置いてある棚と。
生徒が返した本を元の棚に戻すのも図書委員の仕事のうちなのだが、いくら一年生の中では背が高いきり丸と言えど、高い棚には全然手が届かない。脚立を持って来れば早いのだが、面倒くさがりのきり丸にそんな選択肢は無かった。
「うぎぎー…」
と精一杯爪先立ちをして手を伸ばしていると、ひょいと本を取り上げられた。後ろから伸ばされた手は、いとも簡単にコトンと本を立てる。
きり丸がくるりと振り向くと、そこには図書委員長である中在家長次がいつもの無表情で立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「…これ位のことなら、いつでも…」
ぽんぽん、と頭を撫でる。
と、それが何故かきり丸の気に障ったようで、さっきまで殊勝にお礼を言っていたのが長次をきっと睨んだ。
長次は訳が分からなくて思わずたじろぐ。
「俺…何か悪いことしたか…?」
と聞くと、ますます睨まれた。
「今はそうやって余裕こいてるでしょうけどね、あっと言う間に先輩の背に追い付きますからね!すぐ抜かしてやりますからね!先輩のバカ!」
一息に叫ぶと、きり丸はもう一度先輩のバカー!と言いながら図書室から駆け出して行ってしまった。
呆然とその後ろ姿を眺める長次。
一拍置いて、可愛らしいというか子供らしい嫉妬に思わず苦笑した。
「おーい長次ー、お前の可愛い後輩が先輩のバカー!とか言いながら廊下を全力疾走していったけど、あれ何?」
「…文次…丁度良かった、ちょっとカウンター当番頼む」
「は!?ちょっ、オイ!」
後ろで抗議する文次郎を無視し、素直じゃない恋人を迎えに行くべく長次は図書室を出るのだった。
(小さい方が可愛いのに、なんて思ったのは内緒です)
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