ナイフ




昔はこれでも血が怖かったんだよ、なんて言えば君は驚くだろうか。

つう、と細い腕を伝う赤い糸を舐めれば彼はぶるっと身を震わせた。
君の肌はこんなに白いのに、その下を流れている血の何て赤いこと!
綺麗、綺麗だ。
いつからかこの綺麗さに取り憑かれていた。委員会柄、色んな人の血液を見たけど、その中でも君は一番綺麗だ。
外も中も。
外が綺麗だから中も綺麗なのか、中が綺麗だから外も綺麗なのか。分からないけどどうでもいいや。僕にはこの真っ赤な色さえ有ればいいんだもの。

最初はね、本当に怖かったんだよ。
でも恐怖と興味は紙一重で。一度知ればどんどん惹かれていった。
今では自分から求めるほどに。
ねぇ、君の赤をもっと見たいと思う僕はおかしいだろうか。

「…もう少し、切っていい…?」

血が止まってしまったので僕は彼に尋ねた。彼は黙ってこくんと頷く。

「ありがとう」

二の腕の内側。白く柔らかそうなそこを、すっと縦に切り裂く。
ぷつり。
真っ赤な玉がころころと転がり出た。
ぞくりと背筋が疼く。
嗚呼、これがずっと止まらなければ良いのに!

「……っ」

彼は声を出さずに呻いた。その眼の奥に、微かな快楽を覗かせて。





(知ってるよ)