僕らは不平等



不破は破れない。


「あぁ、全く名前の通りだな」
「そう?」


破れない。俺には。俺は決して雷蔵に勝てない。自分の才は自覚してるよ。卑小も尊大もなく。天才と呼ばれてるのも知ってる。否定も肯定もしない。でも俺は昔から雷蔵に勝ったと思ったことがない。その密やかな劣等感は勿論今でも健在だ。
何でだろう、別に形に表れるものならば何だって俺が勝っているのに。実技もテストも俺の方が上だ。
何が負けているのかと聞かれても分からぬ。只漠然とそう感じるだけなのだ。例えば雷蔵はふとした時に俺が全く考えつかないような事を言ったりする。俺が雷蔵の思考を読み切れないとすれば、俺はそもそも雷蔵に負けているのかもしれない。勝ちたいと思うあまりそれを認めたくないだけで、本当は。


「ねぇ、何で三郎は僕の顔にしたの?」


何の話の続きだったか、雷蔵は俺にそう尋ねた。
同室だったから?真似やすかったから?
俺は本当の事を言った。

「雷蔵の顔が一番普通だったから」

優れも劣りもしない。
あんまり見栄えが良い奴に化けても目立つだけだもの。忍者はこれ平凡が一番也、ってね。出る杭は打たれるとも言うし、目立たない方が良いでしょう。
俺の答を聞き、雷蔵は「へぇ、そう」とにっこり微笑んだ。


「僕、平凡な顔で良かった」


その声色には裏も表もなく、ただその言葉通りなのだった。

ああ、敵わない。