鏡
「馬鹿だね、三郎」
「うん。油断してた」
「そうじゃないよ」
とある長屋の一室で、雷蔵は三郎の腕に包帯を巻いていた。腕だけじゃなく足も胴体も顔も、色々な所に痣や傷がある。三郎がボロボロで帰って来る事は既に日常茶飯事と呼べる程多々あるので、雷蔵は今更驚かない。
三郎は秀逸であった。
そしてそれを誇大はしないものの憚ることもしなかった。
教師達の称賛を浴び、後輩や友人の羨望を受け、自分を卑下して上を立てたりなど決してしない。そんな彼が先輩達から可愛がられるはずもなかった。
そりゃあ確かに忍は実力社会。プロになれば年齢など関係なく、強い者が上に行き生き残るだろう。
でも、今はまだどんなに褒められたってアマチュア、教育途中の忍たまなのだ。
「あのねぇ、三郎。気を使って損はしないんだよ」
「そう?」
自分の忠告を全く聞こうとしない友人に、雷蔵はため息をつく。
三郎にすれはこの親友の唯一分からないところがそこなのだ。実は雷蔵だって実力はなかなかある。テストも良い。しかしそれをひけらかさない、というか寧ろ隠す。決して人より前に出ようとしない。
いつどこで誰が見てるか分からないのに自分の能力を隠しておくなんて、チャンスを自ら潰しているようなものだ。
「僕は君の方が馬鹿だと思うよ」
「そう?」
ほら、僕ら互いに押し付けあってるだけだ。さっきの僕と同じ反応するんだから。まぁ人なんてそんなものだよね。結局自分が正しいと思っている。それは勿論僕も同じで、(だって僕も人だもの)相手を馬鹿だと罵りながらもそいつを酷く愛しく思うのだ。きっと自分に欠けているものを相手に見ているんだろう。
(僕たちは正反対だから)
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