めざめ
ばっかじゃないの。
自分自身を罵倒してみた。
自覚があるほど馬鹿なら、俺はもうどうしようもない。
だって気付いてしまったんだ。
でもそんなの有り得ないんだ。
おかしいって。だって俺アイツが嫌いなんだ。何がアイドルだよ。アイツ阿呆だろ。絶対勉強だって実技だって俺の方が上だし!喋ったらムカつくし喧嘩になるから出来れば会いたくない。これほど合わない人間がいるのかってくらいいちいち反りが合わない。俺達はきっと犬猿以上に仲が悪い。アイツなんてくたばってしまえと何度吐き捨てたことだろう。
その日は雨だった。
いつもおっとりしている綾部が、びしょ濡れで泣きながら帰って来た。
俺は当然びっくりして、どうしたんだ何があったと尋ねた。
「…滝ちゃんが私を庇って、」
大怪我を。
ふと床を見ると、綾部の足元に出来た水溜まりは真っ赤に染まっていた。血だらけの滝夜叉丸を背負って帰って来たらしい。綾部の装束もぐっしょり血に濡れていた。
俺はその瞬間、血の気が引くというのを身をもって知った。
すう、と頭の天辺や指の先から血が逃げてゆくような感覚だった。
気付いたら医務室に飛び込んでいて、寝かされた滝夜叉丸の名を必死で叫んでいた。介抱していた善法寺先輩と追い掛けて来た綾部に制されなかったら、叩き起こそうとしていたかも知れない。
そこでやっと自分のしでかした事に気付いた俺は、謝るのもそこそこに自室に逃げ帰ったのだ。
あぁ、ばっかじゃないの。
気付いちゃった気付いちゃった。もう前の関係には戻れない。喧嘩も出来ない。喧嘩どころか俺はアイツの顔を見る事も出来ないだろう。目を閉じた真っ白な顔が頭から離れない。包帯に滲んだ血も。薬の匂いも。だからアイツは嫌いなんだ。いっつも俺をざわめかせる!
(こんなに凶暴な感情が恋だと?)
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