真夏の蝶




動かなくても汗が流れるような暑い日。
文次郎はもとより暑さに強い方だが、この猛暑には流石に閉口していた。
彼でさえそうなのだから、暑さに弱い仙蔵には正に生き地獄だった。喋るのさえ億劫と言った様子で、さっきから寝転んだきりぴくりとも動かない。

「…仙蔵、生きてるか」
「もうすぐ死ぬかもしれん。それか溶けて液体になるかもしれん」
「しっかりしろ」
「何言ってるんだ、この暑さでしっかりする方が無理だろう。全く…お前こそしっかりしろ」
「逆ギレかよ!」
「大体な、人間は暑さの方が弱いんだ。そういう生き物なんだ。考えてもみろ、寒さで思考停止する時は死ぬ時だが暑さで思考停止してもまだ死なないだろ。私はその沸点が人より低いんだ」
「お前さっき死にそうとか言ってなかった?しかも何でそんな偉そうなの?」
「偉いからだ」
「まだ当分死にそうにないな」
「それより文次郎、お前は元気だろ。私を扇げ」
「ふざけんな!」
「じゃあいい。そもそもお前の存在自体が暑苦しいからな…長次か伊作を呼んで来てくれ。そしてそのまま帰って来るな」
「炎天下に引きずり出してやろうか」
「一人で出ろ。しょうがない、お前で我慢するから早く扇げ」
「何でそんなに我が儘なんだよ!」

と言いつつも、渋々扇ぎ始める文次郎。自分がやらなければ結局長次か伊作がやらされることになるのだ。
仙蔵は目を閉じ気持ちいいな、と呟いた。