化粧直し




おんなのこという生き物は、下睫毛の一本一本まで飾り立てないと気が済まないようだ。そんなことをしなくても彼女の睫毛は長いし眼だって大きい。香水は他の女の子の匂いと混ざっちゃうし、髪は色を変える度確実に傷んでいく。
綾ちゃん、三木ちゃん、滝ちゃん、それに新入りのタカちゃん。みんな可愛い女の子なのに、化粧をして飾り立てることで個性が消えて平面的になると思ってしまうのは私だけだろうか。
それでも私は何故だか滝ちゃんという個性を選んだのだ。


「滝ちゃん、ごめんね」


そう言って私は彼女の顔にあったかいお湯をばしゃんとかけた。滝ちゃんは怒るより訳が分からない様子。彼女が正気に戻らない内にと、私はタオルで彼女の顔をごしごし擦った。

「ちょっと、七松さん!痛い!」
「あ、ごめん!」

つい力を入れすぎてしまったようだ。だって女の子の化粧って、どれくらい擦れば落ちるのか分からなかったんだもの。
私は顔を背ける滝ちゃんの顔を両手で挟み、自分の方へ向ける。
少し顔が柔らかくなった気がした。タオルは所々汚れている。マスカラや口紅、ファンデーションで塗り固められた顔はさぞや窮屈だっただろう。髪の生え際は僅かに黒くて、元は黒髪だったのだと知った。このストレートヘアーが真っ黒になったらどんなに綺麗だろうか。白い肌、黒い髪、赤い唇。まるでお人形さんみたいだ。

「滝ちゃん、可愛い」
「何言ってるんですか。すっぴんですよ」
「こっちの方が可愛いよ。髪も黒に戻しなよ。絶対綺麗だから」
「……」
「ね!」

真っ赤になって俯いてしまった滝ちゃんの唇を優しく捕まえる。
赤い色素の膜を介さないキスは、いつもよりずっと甘かった。