メロウ
雷蔵だけが俺を暴いていい。
雷蔵の前じゃ何もかも無意味。俺は顔に薄い皮一枚貼るだけで他人から自分を守れるけど、雷蔵は違う。雷蔵は特別。
雷蔵は俺の顔なんて簡単に引き剥がしてしまうもの。
ねぇ、雷蔵にとっても俺は特別でしょう?
雷蔵は皆に平等だけど。
俺には平等じゃない。
それが例え「皆より上」じゃなくたって、俺だけが雷蔵の特別ならそれでいい。
普段温厚で迷い癖のある雷蔵が、俺にだけは冷たく罵って、顔を引き剥がすのを躊躇わない。ねぇ、それって俺が特別ってことでしょ。ゾクゾクしない?
「やだな。変態?」
唇だけで笑って、俺を見下ろす雷蔵。
「何で。雷蔵にだけだよ」
「それでも充分だよ」
「そうかな」
「そうだよ」
俺は納得出来ない。
「じゃあその変態を毎晩弄って楽しんでるお前は何なの。何で俺にいつも顔貸してくれる訳?」
「僕は変態じゃないし、三郎が大嫌いだから顔を貸すのさ」
俺が理解出来ないと言った顔で見上げると、雷蔵は益々見下げたように嘲笑う。
その冷たい眼が、何故だろう、俺をひどく熱くするのだ。
「僕と三郎は二人で一つなんだよ。表裏一体なんだ。三郎が変態だから僕は変態じゃない。三郎が僕を大好きだから、僕は三郎が大嫌い」
ほら、うらおもてだろう?
雷蔵はにこりと笑う。
成る程。合点がいった。
「…じゃあ、俺は雷蔵なんか全然特別じゃない」
俺がそう言うと、雷蔵は笑いを消した。
俺の、裏の口が嘲って言葉を紡ぐ。
「うそつき」
(嗚呼、蔑んでくれ!)