ピノキオ



だって食べれる時に食べとかなきゃ。


彼は至極真面目にそう言ったのだ。
「何だってそんなに急いで食べるんだよ。もっとゆっくり噛んで食べないと、身体にも悪いぞ」
僕はそう述べた先程の自分の言動をひどく軽率だったと思い、ドキッとした。
そして何も言えず俯く。そうだね、とは死んでも言えなかった。だってそれはおかしい。彼は相当に気の毒な人生を送って来たようだ。きっと明日どころか今日の食事も定かではなかったのだろう。
僕は唐突に今食事を摂っていることを申し訳ないと思い、箸を止めた。
しかし彼は特に気分を害したりはしなかったようで、相変わらずすごいスピードでご飯をかきこんでいる。

「何だよー、そんな顔すんなよ。別に庄ちゃんのせいじゃないじゃん」
「そうだけどさ」

ほら、残したらおばちゃんに怒られるぞーと言ってきり丸はにっこり笑った。
僕はもう一度お茶碗を手にとり、白いご飯を一口含む。美味しいな、と思った。同時にやはりよく噛んで食べようとも思った。
きり丸は既に食べ終わっている。
(もうゆっくり食べてもいいのに)
と思ったけど口には出さなかった。
そのかわりと言っては何だが、

「これ、あげる」

そう言ってデザートのゼリーをこっそり渡すと、彼はサンキュ!と言って嬉しそうな顔をした。