ネオメロドラマティック
伊作先輩が好きです。
思慕の情でなく恋愛の情だと自覚したのはつい最近。知ったが最後、もう私はあなたが好き好き大好き、そればかりが頭の中を占めて得意のバイトも身が入らない。
ねぇ、先輩は俺のことどう思ってるかな。些細な擦り傷や微熱でいちいち医務室にやって来る俺を、甘えん坊で困ったさんだと思いつつも、年下だからと優しく接してくれてるんだろうか。
そう、伊作先輩は優しいんだ。
だから俺は迷う。
みんなに優しいから、俺は自分だけが特別に優しくされているとは到底思えない。
いっそ先輩が冷たい人だったら。
そうしたら、先輩も俺のこと好きかどうか分かるのに。
そんなに優しい眼で見ないでほしい。
声をかけないでほしい。
頭を撫でないでほしい。
笑いかけないでほしい。
だってどうせ同じことみんなにやってるんでしょ!
でも先輩が好きですなんて余計なことを言ってフられて、笑顔すら向けられなくなるのは怖いから。
それくらいなら、みんなと同じで良いとも思う。
そう思うのだけど、俺はガキだから先輩の姿を見た途端そんな思考は吹っ飛んじゃって、会いに行って飛びついて好きって言いたくて堪らなくなる。
心に押し込めて平気な顔してられるほど、この気持ちは小さくないのだ。
ガラガラと医務室の扉を開けると、伊作先輩はいつもと変わらぬ笑顔で俺を迎えてくれた。
「や、きり丸君。今日はどうしたの?」
その笑顔が声が優しくて嬉しくて。
ああ、怖い。
怖いや。
俺は一つ息を吸い込んだ。
(行こうか、逃げようか)