サロメ





「長次、キスしていいか?」


このところ食満は度々俺の部屋に来てそう尋ねるのだ。それはもう、断るのに遠慮がいらなくなるほど何度も何度も。
でも俺は全力で抵抗する訳ではないし、別に彼が嫌いではないから何が何でも断りたい訳でもない。そうして黙って思案している内に彼はいいよな、ともう一度だけ尋ねそれに拒否を示さないのを肯定と受け取り脣を奪う。あくまで普通のキスだった。貪る訳でも、初めてのように拙いものでもなく、普通のキスだった。それ以上に発展する訳でもない。キス止まりのこの関係は一体何だろうか。ただ彼は俺の身体を触るのが好きだった。髪の毛を触ったり指を絡ませたり首筋をなぞったり。あまり他人と距離が近いのを好まない俺は、最初こそこのスキンシップに戸惑ったもののすぐに慣れた。彼には下心がなかった。まるで小さな子供、彼は恋を全く知らなかった。
「長次の髪はとても綺麗だなぁ。好き。肌も、傷いっぱいついてるけど綺麗。好き。顔のこれはやっぱりもう治らないのか?でもちょっとくらい傷があった方がかっこいいよな。長次、好きだよ」
純粋な彼は好きを何回も繰り返す。
それは俺にとって全く重荷でない代わりに少し寂しかった。ああ、俺は彼の何の他意もないキスを浴びているうちにいつの間にやら彼が好きになっていたのかもしれない。彼の好きは俺の好きとは違う。例え何度脣を重ねたって、きっと彼の身体は少しも疼かないのだろう。俺の身体は彼が近付く度熱く燻るものを!
この小さな子供が俺の劣情に気付きもせずキスを繰り返すのに少々腹が立ち、俺は初めて彼の身体に指を滑らせてみた。彼はびくんと奮え、驚いたようにこちらを見返して来る。少し愉快だと感じた。
「長次」
「…何だ」
「今日のお前の脣は苦いな」
何故だ?と彼が問う。
それを俺に聞くのか。やはりまだまだ子供だ。そこらの童と変わらないな。俺は笑みを漏らしたのだろうか、彼はそれを目敏く見付け綺麗な眉を少し顰めた。