偽善を引きずりまわすひと



「留、次はこっちだよ。」

そう言って伊作はいつも俺を引っ張り回す。たまには部屋でゆっくり本でも読ませてくれよ。そう愚痴を零したところでこの友人は聞きやしない。同室だからか、組が同じだからか。未だに釈然としないがスケープゴートに選択肢などないのだ。
伊作の度が過ぎる親切に、みんな彼を偽善者だと笑った。どうせ自分が良い人だと満足したいからこその行動だろうと嘲った。彼は気付いているのかいないのか、全く気にしなかった。


「留。あそこ壊れてる。直さなきゃ。」
「留、見て、泣いてる子がいる。」
「留、あの子道に迷ったのかな?」


いつも自分の割ける限りの時間を他人に費やすあいつは、確かにお人良しと呼べるラインを超えている。そして寝る前には今日も疲れたね。と言ってにっこり笑うのだ。周りの言う通り、彼は親切することに満足している。だが親切だけが何故そうも満足してはいけないように言われるのだろうか。構わないじゃないか。誰かが助かるのならそれでいいじゃないか。彼は見返りを求める訳ではないし。
大体俺は彼に日毎連れ回されていい迷惑なのだ。そんなお前が優しいものか。本当に自分勝手なやつだよ。

「留、今日は廊下の修繕だよ。」

今日もお前はにっこり笑う。もう既に道具箱まで手にして。
俺は溜息をついて立ち上がる。
全く、俺は別に楽しくも何ともないのに。こいつが言わなきゃ絶対やらない。


――ああ、偽善者は俺か。