悲劇だけに魅かれるひと




大好きだよと微笑む割に酷く乱暴。嫉妬深い。タカ丸さんの部屋に行って勉強を教えていたら、帰りが遅いとひっぱたかれた。閨で綾部に逆らえば、徹底的に虐め抜かれるから恐ろしい。普段だって人畜無害な顔をしていながら逐一抜目なく私の行動を見張っているのだ。でもそれは全部彼が私を好きで好きでしょうがないからだ。そんな彼が私も好きなのだから尚更しょうがない。私は彼を許し、彼は私を許さない。でも綾部、大好きだよと囁けば彼は幸せそうににっこり笑う、その顔がとても愛おしい。離れるなんて選択肢はないよ、だから悋気に顔を歪めないでずっと笑っていて。



「…滝ちゃん、今日裏庭で一緒に喋ってたあの子だれ?」
「…知らない。隣のクラスのやつだ」
「告白されたんでしょう」
「断ったよ。私には綾部がいる」
「ふふっ。良かった」
「だから前みたいに殴りに行ったりなんかするなよ」
「分からないよ。滝ちゃんに邪に近付いたってだけで腹立つんだもの」
「そんなことしなくても私は変わらないから。大好きだよ」
「滝ちゃんは人を愛すのが上手だね」
「そんなことないさ」

綾部は甘えるように私の膝に頭を乗せた。私は綾部の柔らかい髪を優しく撫でる。ふわふわで気持ちがいい。彼は眼を閉じ、私の腰に腕を回した。

「…私は滝ちゃんを愛すのが下手だね。私の愛し方は滝ちゃんを檻に閉じ込めてその廻りで私が檻に近付く者を見張ってるみたいな感じなんだもの。これじゃあ二人とも疲れてしまう、二人とも幸せじゃないや。ごめんね、滝ちゃん、」

そう言って、最後の方はくぐもった声で、彼は少し泣いているようだった。
私は何と返せば良いか分からず、もう一度大好きだよと言った。
私の腰に回る手に力が篭った。