そらゆめ





空と言えば窓から見える丸い小さな範囲だった。私は空をそれしか知らない。幼い頃はきっと知っていたのだろうけど、いつからか外に出なくなって気付けば空を忘れていた。そうして今ではもう怖くなってしまったのだ。もし私の想像する空と違ったら、私の思い描くより小さかったらきっと失望する。勝手な話だ。分かっているさ。
いつか私がそう零すと留三郎は、
「じゃあ、お前に空を見せてやる」
と笑った。
「こんな切り取られた狭い空なんかじゃなくて、もっともっと広いやつを。」
でも、と私は言い淀んだ。
外には出たい。
空も見たい。
でも見るのは怖いのだ。
「大丈夫だよ、空は想像で収まり切らないくらい広いから。待っててくれよ。なぁ、言っていいかな?俺、今金貯めてんだ。何でって、そりゃあお前を請け出す為だよ!ああ、恥ずかしいな、言わせるなよ。だからさ、これ以上高嶺の花にならないでくれよ。俺なんかじゃ手が届かなくなっちまう。って言っても滝は綺麗だもんな。俺も頑張るよ、早くここからお前を出してやりたい。約束だよ。この簪、別に高くもないやつだけどさ、滝に似合うと思ったんだ。約束のしるしに貰ってくれるか?」
それは繊細なつくりの、晴れた空の色をした簪だった。金にまかせて貴石を溢れるほど埋め込んだ簪よりもよっぽど私の好みに合っていた。嬉しくて私が直ぐさま簪を挿し替えると、留三郎はやっぱりよく似合っている、と微笑んだ。
嗚呼、素敵な色。
早く空が見たくなった。なぁ、空とは留三郎にとってどんなものだ?
「そうだな、場所によって自在に形を変える。でもとにかく懐が広くって、何でも飲み込んでしまえる。そして気まぐれ、全くひとの思い通りにはならない。ふふ、女のようなものだ。」
そうか、そうか。
約束だぞ。私はお前の隣で空を見よう。
私が笑うと簪も笑った。