他人と遠くありたいひと




彼は自己研鑽の男だった。
同時にどこか他人を寄せ付けないところがあった。それは潔いのだけれど、少し寂しかった。
彼と近付きたかった俺はその努力を惜しまなかった為、六年間かけてようやく友達と呼べる位置まで上ることが出来た。
そうして、彼の気持ちや考えをひとより多く聞くのが嬉しかった。しかし彼は他人に大して臆病であった。
どうせ卒業すれば別れるのだと言って、俺以外の友人をほとんど作らなかった。意図的に友人を作らない学園生活が楽しいのだろうかと思ったが、俺が友人の範疇にいるならばそれでもいいと思った。

が、彼はある日珍しく口を滑らせた。
曰く、卒業したら俺とももう他人だと。
いずれ敵同士として出会ったらどうする。殺し合わねばならないのだぞ。その時友人だった、なんて情に流されて躊躇ってはいけないのだ。留三郎、お前は良い友人だがそれはこの学園にいる間だけのことだ。卒業したら、お前も俺のことなんか忘れろ。

酷い、あんまりだ。気付けば俺はぼろぼろ泣いていた。自分がこんなに簡単に泣くなんて思わなかった。座り込んでさえいた。長次が困ったような顔をして泣くな、と言った。俺はそれで少し救われる思いだった。さっきの言葉が本心ならば彼は俺を突き放すと思ったからだ。
困らせついでに、俺は長次に好きだと告げた。彼は更に困った顔をした。すぐに断ると言えないところが大好きだと思った。傷付けるのを躊躇う程度には、彼も俺を好きになってしまっていたのだ。

俺は諦めないから、そう言うと返事も聞かずに部屋に駆け戻った。

明日会ったらどんな顔して挨拶しようか。俺は明日も笑ってやる。ずっとお前の友達を続けてやる。
お前は明日どんな顔して挨拶をするだろうか。いつもと変わらないあの仏頂面だろうか。それともたまに見せてくれるあの微かな笑顔だろうか。
そこまで考えてますます泣けて来たので、もう後は感情にまかせて泣いた。