命の意味をしらないひと
知識ばかり増えてどうするつもりだろう。何事も実践が大事だ。頭の中でやるように簡単にはいかないのが現実と言うもの。そしてそう上手く実験体が転がっていないのも現実というもの。
僕は部屋を出た。
自分が仕掛けた罠に獲物がかかっていないかを見回りに行くのだ。
「留、大丈夫?今助けてあげるからね」
今日は何となく誰かかかっている気がしていたのだが、その予感は見事的中した。可哀相に、僕のスペシャルコースの狼穽に嵌まったのは同室の留三郎だった。しかし留は僕と違って運がいい。僕が落ちたらきっと全身串刺しだったろうけど、彼は脇腹を掠り腕を貫いただけだった。僕は留を引きずり上げる。彼は低く呻いた。救急箱を開け、手早く止血と消毒をし、包帯を巻く。うん、我ながら鮮やかな手並みだ。
満足して包帯を巻き終えると、留ににっこり笑いかける。
「終わったよ。歩ける?」
「…すまない、大丈夫だ」
留は僕の手を取りゆっくり立ち上がった。が、ふらりと揺れるので慌てて肩を貸す。もう一度彼は「すまない」と謝った。
いえいえ肩くらい貸しますよ、君をこんな目に合わせたんだもの。可哀相だから次に罠をしかけるときは君が引っ掛からないような所にするよ。
僕の微笑みをどう捉えたのか、留は弱々しくにこりと笑い返した。
血がじわりと滲んだ。
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