鮮やかな
手の上の、鮮やかな色で自己主張する毛虫の背中を孫兵は優しく撫でた。
周りをキョロキョロと見渡し、誰もいないのを確認して虫籠をそっと開け、毛虫を中に入れる。
「ま・ご・へ・い」
が、突如背後から聞こえた声にびくっと振り返ると、同じ委員会の先輩である竹谷がにっこりと微笑んでいた。
「た、竹谷せんぱ…」
「お前また新しいの捕まえてきて!いい加減世話しきれないからやめろって言っただろ!もしくは一匹捕まえたなら一匹逃がしなさい!」
「だ、だって!見て下さいこの色!珍しいじゃないですか!」
「ああ、明らかに毒を含んだ威嚇色だな。元の場所に戻して来い」
「じゃあこないだ産まれたカメ五郎の子供を一匹逃がしますから!」
「…それなら良いだろう」
竹谷が怒るのも無理はない。孫兵のペットの世話は到底彼一人で抱え切れるものではなく、竹谷やその他の生物委員たちが手分けして世話をしているのだ。
勿論孫兵もそんな状況を申し訳ないとは思っているが、どうしても見たことのない鮮やかな虫を見ると連れ帰ってしまう。
無事居住権を得た毛虫は、孫兵の入れてやった葉を静かにかじり出した。
「お前は本当に虫が好きだな」
「だって綺麗じゃないですか。それに最初から自分の身を守る能力があるなんてすごい!かっこいい!」
「そうかなぁ…」
「そうですよ!」
目をキラキラさせて力説する後輩を、竹谷は呆れ混じりに見る。そういえば俺の同室の奴も、「豆腐のどこがそんなにいいんだ」と聞いたら同じような感じで延々豆腐語りを始めたなぁ、なんて思いながら。
毒は恐ろしい。武器と違って隠すことはとても簡単だ。水や食物に混ぜてしまえば姿も見えない。小指の爪ほどの量で人を殺せるのだ。孫兵も、いつも火薬を持ち歩くあたり喰らったときの覚悟は出来ているのだろうが、心配には変わりない。
「…気をつけろよ」
と何度目かも分からぬ忠告をすると、それでも孫兵は元気にはいと返事をした。
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