誰そ彼時
生徒がみんな帰省したあとの忍術学園は、火が消えたように静かだ。普段あれだけ煩いから尚更そう感じるのだろう。
長期休暇でみんなが帰ったあとも、土井先生は終わっていない仕事を片付けるとかで学園に残っているので、必然的に俺も残っていた。が、今日やっと仕事が終わったらしく遅ればせながら俺達も家に帰ることになった。
「遅くなってすまないな、きり丸」
「いいっすよー!内職いっぱい出来たし」
「宿題もやれよ…」
「分かってますよ!」
先生の小言は聞き流し、手を引いて門を出る。いつもはみんなの先生だけど、お休みの間は俺の先生だ。先生を困らせるのも喜ばせるのも俺だけなんだと思うと、みんなには悪いけどちょっぴり優越感が沸く。途中の茶屋で一休みしてお団子を食べるのも、手を繋いで歩くのも、親子に間違えられるのも、みんなみんな俺だけの特権だ。
「お、きり丸、見ろ。綺麗な夕焼けだぞ」
先生が赤々と燃える山の端を指差した。沈んでいく夕日は空だけでなく先生の指も、顔も、着物も真っ赤に染め上げている。きっと俺も真っ赤に染まっているのだろう。
誰にも秘密だけれど、俺は前にも真っ赤な夕日を一人で見た。その時は帰る家もなく隣に立つ人もなく、孤独で仕方なくてひたすら泣いていた。
でも今は先生がいて、一緒に家に帰って、幸福な夜を過ごす。だから俺は笑って、
(キレイですね!)
こころから、そう言えるのだ。
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