愚かな男



この男から色々なシャンプーの香りがするのはいつもの事だ。
新商品が出たと言っては手当たり次第に買いあさり、使い心地が悪いと言っては数回しか使ってないのに買い替える。残りは寮の風呂場に放置すれば誰かが勝手に使ってくれるだろうと思っているようだ。まぁ事実その通りではあるのだが。
だから、何故違和感を感じたのかは分からない。ピンと来たとしか言いようがない。女々しくて全く嫌になる。この人に関しては俺は普段のプライドも何処へやら、心の醜い部分を簡単にさらけ出してしまう。

「タカ丸さん、またシャンプー変えたんですか?」
「え、うん、前の匂いは飽きてさ、」
「へぇ。でもこれ、あんまりタカ丸さんが好きそうにない匂いですよね。」
「た、たまにはいいかなぁと…」
「ふぅん」
「……」
「誰の部屋に行ってたんですか」
「…ごめんなさい」

ごめんなさいじゃ分かりませんよ、とにっこり笑ってやれば彼はたちまち青ざめた。なんだかんだ言って俺に捨てられるのが怖いくせに、何故浮気するのだろう。分からないが、浮気したくせに捨てないでくれと縋り付くその愚かさは嫌いじゃない。
別れてやると呟けばこの男はどれほど悲壮な顔をするのだろうと思うと、自然口元に笑みが浮かんだ。