恋心の視認性







ふわふわ。
眼の前を淡い色した髪が揺れる。
量は多いのに軽そうな髪。

(いじってみたい。)

ふとタカ丸は思った。

忍術学園ってところは職業柄髪が長い人が多くていいや。みんないつも同じ髪型ばっかりしてないで、たまには違う髪型にすれば良いのに。俺がやってあげるのにさ。
さらさらの髪を触るのも良いけど、ふわふわのくせっ毛を纏めるのもやりがいがあるんだよねぇ。

「…あれ?」

手を伸ばしてすぐ眼の前の背中に垂れる髪を触る。
すると髪の主、綾部は弾かれたように振り返った。その勢いにタカ丸は少々驚く。

「な、なんだよ!?」
「なんだよって、あなたが急に触って来たんじゃないですか!」
「いや、そうだけどそんなに驚かなくても…。それよりさ、何か綾部、髪の毛綺麗になった?」

にこり、と笑って問うと何故か顔を赤くする綾部。
あれ、何か既視感のある光景だ、とタカ丸は思った。
どこで見たんだっけ。

「あなたが」
「え、」
「あなたが手入れしろって言ったからでしょ!」

綾部は益々顔を真っ赤にすると、呆気に取られているタカ丸を残し、足早に教室を出て行った。
そう言えば。
まだ入って間もない時だったけれど、この子の髪のタイプが大層珍しかったものだから声をかけて少し話した。その時、彼の髪を見て多少傷んでるようだからちゃんとトリートメントした方が良いよ、せっかく珍しい髪を持っているのに、とか何とか言った気がする。

「気にしてたんだ…あ、」

さっきの既視感の正体、昔店で働いていた時、自分に好意を持っていそうな女の子に同じことを聞いたら同じ反応が返って来たんだ。
え、じゃあそれって、それって。


「あ、綾部っ!」


数瞬の後、やっと答えに気付いたタカ丸は慌てて教室を飛び出したのだった。