冬の友人




好きだ、と、決して口には出さないが自分では分かっていた。理解していた。どこにいても何をしていても、あいつの姿が気になるのだ。人がたくさんいる中に深い緑の制服を見ると思わず目を凝らすし、休み時間に教室にいても、ああ今外の廊下をあいつが通ったと、ざわめく周りの空気を突き抜けて俺の耳はあいつの声を捉える、分かってしまう。喧嘩をするのはお互いが気になるからだ。そんなことはみんな知っている。認めないのはいつだって本人達だけ。

俺は意地を張っていただけなのだ。きっとあいつも。
今から思えば何と下らなかったことだろう。だがその時はその下らないプライドが何より大事だった。



「もう遅い、な」
「遅いだろうな」
「卒業するし」
「道は別れるだろうし」
「馬鹿だなぁ、俺ら」
「六年もあったのにな」
「何やってたんだろうな」
「全くだ」


その日は珍しく喧嘩をしないで、まるで普通の友達のように俺達は話した。せめて一年前にこんな風に話せていたら、俺達の関係は変わっただろうか。
お互いに好きだと知っていたのに、恋人になる前に俺達は別れた。

それでも会えばまた言い争うし、張り合うし、殴り合いの喧嘩もする。
そしてボロボロになった後に、ふとどうしようもなく寂しくなるのだ。さっきまで頭に血が昇って真っ赤になるくらい怒っていたのに、こいつを叩きのめしたくてしょうがなかったのに、じんじんと痛む拳を抱えて俺はこの痛みすらずっと持っていたいと思う。かじかんだ指先を、火鉢のひとつもないこの部屋の温度を、今日の喧嘩の原因を、おまえを、おまえを。
俺はひどい顔をしていたようだ。あいつもひどい顔をして、なんて顔してんだ、と笑った。
その瞬間また顔が熱くなって、違う、目頭が、と気付いた時には俺はいつの間にか泣いていたのだった。