liar liar



「あの、火薬の本、どこにありますか?」

図書室で雷蔵の代わりにカウンターに座っていた鉢屋は、明るい金色の髪をした四年生に声をかけられ顔をあげる。

「ああ、奥から二番目の棚にあるよ」
「ありがとうございます!」

ぱたぱたと落ち着きなく駆けていく彼を見ながら、どこかで見たことがあるなぁと考えていたが、そういえば兵助と一緒にいたんだと思い出す。ってことは火薬委員か。
(…斉藤、だっけ)
(雷蔵はあいつの名前、知ってるんだろうか)

暫くして本を数冊抱えた彼が姿を現し、「貸出お願いします」と言ってカウンターにカードを置いた。

(カードに名前が書いてあるから知ってても不自然じゃないか)

そう思い、鉢屋はカードに印を押しながら話し掛ける。

「斉藤はもう学園に慣れた?途中編入は大変だと思うけど、頑張ってね」
「あ、ありがとうございます!みんな年下なのに俺よりずっとしっかりしてて…えぇと、不破先輩?鉢屋先輩?」
「図書委員の方、僕が不破雷蔵だよ」
「でも滝が鉢屋先輩は嘘つきだから気をつけろって言ってました」
「…斉藤はどっちだと思う?」

滝夜叉丸のやつ、と思いながらにっこり笑顔で問い掛けてやると、タカ丸は整えられた眉をしかめてうぅんと唸った。

「…鉢屋先輩、かな?」
「何で?」
「不破先輩はそんなこと聞かないような気がして」

間違ってたらすみません~と頭をかく彼を見つめ、鉢屋はふぅんと内心賛辞を送った。お遊び気分で忍者になったのかと思いきや、どうしてなかなか鋭い。コイツは直感力で生き延びるタイプかな、と思った。
そしてカードを眺めて小さく目を見張る。
彼は驚くほどハイペースにたくさんの本を読んでいた。きっと、彼なりに今の同輩たちに追い付こうと必死なのだろう。
そういう人間は好感が持てる。

…だけど。

「残念、本当に不破雷蔵だよ」

見破られるのは癪なので鉢屋はさらりと嘘をついた。
そうですかぁ、とタカ丸は笑ったが、その笑顔は自分と同じように一枚皮を余計に被っている気がした。
案外似た者同士なのかもしれぬ。

失礼します、と金色を揺らして出て行く彼の背中を見送りながら、鉢屋は不思議な期待が胸を占めるのにそっと蓋をする。


(次は俺の嘘も見破ってくれよ)