本当に綾部は私がいないとだめなんだから、とは滝ちゃんの弁だ。
それはもう過保護な親のような口ぶりで、実際滝ちゃんは親よりも世話を焼いてくれるのだが、呆れた風でありながらも明らかに充足感を滲ませているのだ。
ええ、本当にその通り。
私は滝ちゃんがいないと布団もたたまないしテストにも寝坊するだろう。私自身滝ちゃんに世話を焼いて欲しくてわざと甘えていたりする。そんな思惑を知ってか知らずか、彼は今日も私の名前を呼ぶ。
「綾部、襟元が。」
「え?」
「ひっくり返っているぞ。」
全くお前は、と笑って滝ちゃんは手早く襟元を直してくれた。ありがとう、とお礼を言う。
「もう四年生だというのにそんなことでは、卒業したらどうするんだ。もっとしっかりしないと」
「卒業したら滝ちゃんをお嫁さんにもらうから大丈夫。滝ちゃんはきっと良妻賢母になるよ」
「はは、卒業してまでお前の世話を焼かなければいけないのか」
そう言って滝ちゃんは苦笑するが満更でもなさそうだ。私も薄く笑う。滝ちゃん。滝ちゃんは賢いから気付いているでしょう。私は滝ちゃんに依存しているかもしれないけど、滝ちゃんも私に充分依存してるんだよ。お互いに依存しているから私たち上手くいってるんであって、片方だけだったらどちらかが潰れてしまうはずだもの。
ねぇ滝ちゃん。
私、しっかりしちゃっていいの?
滝ちゃんの手が私のはねた髪を整え、名残惜しそうに離れた。
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