真珠
やはり海は冷たいと、泳いだあといつも舳丸は思う。それは至極あたりまえのことなのだけど、温度とは別に、舳丸の心を冷やすものがあるのだ。それは、海が生命の源であると同時にたくさんの屍を抱えているからだと舳丸は思っている。嫌悪ではない。今まで失ってしまった仲間もここにいるのだと思えば、俺はこのまま沈んだっていいとさえ思う。しかし同時にひどく寂しいとも感じた。温かさを知ってしまった人間は今更冷たい寝床では安眠出来ないのだ。
(お前ら、冷たいだろう。)
口には出さずに呟く。口に出してしまえば、きっと引きずり込まれてしまうから。
(海はすきです。温かい。)
自分と正反対のことを言う、年下の彼の顔が脳裏に浮かんだ。お世辞にも綺麗とは言えない髪をいじりながら、照れ臭そうに笑う。
(だってみんな海から生まれたんでしょう。帰るだけです。)
死ぬのが怖くないのは、背負うものがないからだと舳丸は思った。若い者の特権だとも。きっとまだ間切は誰も失ったことがないのだろう。
海を愛しすぎれば、海に魅入られる。そうやって死んでいく者を、たくさん舳丸は見て来た。舳丸にとって海はいつも畏怖の対象で、だからこそ自分は生き残ってこれたのだろうと思うが、同時に間切のような人間を羨ましいとも思った。舳丸は背負い続けるしか出来ないのだから。
(黙して死を包む貝のように)
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