ケーキと紅茶




滝夜叉丸はチョコレートケーキ、三木ヱ門はモンブラン、タカ丸さんはチーズケーキねと言って出掛けた筈が、綾部が買って来たのは可愛らしいマフィンが四つだった。ご丁寧にマフィンのトッピングだけはそれぞれの希望に忠実である。

「…綾部、どうしたのこれ」
「いつものケーキ屋さん、お休みだったの。どうしようかなぁと思ったら、お隣りに美味しそうなパン屋さんが出来ててさ。試しに買ってみた。ケーキより安いし、いいでしょ」

そう言われれば確かに美味しそうなマフィンではあるが。しかしやはりケーキとマフィンは別物である。あの小さな中に贅沢をめいっぱい詰め込んだ感じが好きなのだ。

三人の心の中を見抜いたのか、綾部は「ちょっと待ってて」と言うとキッチンへ行き、パン切りナイフを持って戻って来た。さっくりとマフィンにナイフを入れ、四等分すると、小皿に一つずつ置いていく。それを四回繰り返すと、それぞれの皿には色とりどりのマフィンがお行儀よく並んでいた。

「ほら、可愛くなったでしょ?」

にっこりと綾部が笑うと、滝夜叉丸は「これはこれで良いな」と呟いた。三木ヱ門は「そうだ、こないだ美味しい紅茶の葉を貰ったんだ。私淹れてくる」と言ってキッチンへ向かった。タカ丸は「生クリーム作ってデコレーションしようよ!」と壁にかけてあったエプロンを手に取った。
俄かに賑やかになるキッチン。かちゃかちゃと食器の音が聞こえるのは、滝夜叉丸がみんなのお気に入りのカップを出しているのだろう。

これからはマフィンをおやつのレパートリーに加えても良さそうだと思いながら、綾部はすっかり機嫌の治った三人とティータイムを楽しむべく慣れた手つきでテーブルの準備を始める。


午後の緩やかな一時は、美味しいお菓子をいただくためにあるのだ。