sandglass
タカ丸さんの部屋は、いつもたくさんの時計で溢れていた。色々な珍しい時計を集めるのが趣味らしい。壁いっぱいにかけられた時計や所狭しと置かれた様々な時計の共通点は、全てアナログ時計だということだった。彼曰く、時間というのは無機質に表示された数字などで見るものではないそうだ。(じゃあ何で見るものなのかしら、とは思ったが言わないでおく。)
中には外国土産でもらったものもあるらしく、色とりどりに存在を主張する時計たちを見ていると時計に興味のない私でも楽しく思えてくる。
そんな種々の時計の中で、一際大きくて目を引く時計が一つあった。
それだけは何故か他の時計と明らかに違う時刻をさしている。電池が切れている訳でもなさそうだし、他の時計が全て同じ時刻をさしているのに一つだけ合っていないのもおかしいだろう。
「タカ丸さん、何故これだけ時間がずれているんですか?」
私が率直に尋ねると、タカ丸さんはその時計を見てにっこりと笑った。
「これはね、仕事で世界中飛び回ってる滝夜叉丸の為の時計なの。パリに行けばパリの時間に、リスボンに行けばリスボンの時間に合わせる。そうすれば滝夜叉丸のところは今何時だろうってすぐ分かって便利でしょ。俺、世界中の時差なんて覚えていられないもの。だから滝夜叉丸が電話をくれた時に時間を聞いて、時計を合わせるの」
なるほど、と呟いて私は再び時計を見上げる。
この時計の数からして斉藤タカ丸という男は相当気が多いと知れるが、それでも滝ちゃんは彼に格別の愛を注がれているようだ。タカ丸さんは一番大きい彼の愛を滝ちゃんの為に使っているのだから。
タカ丸さんの表情を見るとまるで時計の向こうに滝ちゃんを透かして見ているようで、私はそんな二人を少し羨ましいと思った。
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