美しい人
仙蔵の側は、ひどく心地良い。
普段俺はどちらかと言えば頼られる方で、委員会では最上級生だし、同室の伊作は色々と危なっかしくて目が離せない。
そうして知らず知らずの内に気を張っているのか、仙蔵の側に行き頭を撫でてもらったり一緒に寝たりするだけで俺はとても安心し、自分が気を抜くのがよく分かるのだ。
しかし今度は仙蔵が気を抜く場所がないのではないのかと心苦しかったので、一度その旨を聞いてみたのだが「文次郎でストレス発散するからいい」との答えだった。俺はその時初めて喧嘩ばかりしている文次郎に少し優しくしようと思った。
そんな風に、仙蔵といると非常に落ち着くのだが、落ち着かないことが一つだけある。
仙蔵が、俺を褒めること。
俺の髪を梳きながら、唇に触れながら、背を撫でながら、留三郎は本当に綺麗だな、とそっと囁くのだ。
そう言われるたび俺は赤くなったり緊張したりして、そんなことねぇよ、と返すので精一杯になる。
仙蔵は同性から見ても羨ましくなるほど本当に綺麗で、美しいという言葉は彼女の為にあるんじゃないかとさえ思える。長く黒い髪はさらさらで艶めいているし、肌は白く透き通っているし、切れ長の眼は長い睫毛に縁取られている。とにかく頭の上から爪の先まで美しいのだ、仙蔵という人間は。
そんな仙蔵が何故俺を褒めるのか、俺には理解出来なかった。
俺の髪は短いし、外で仕事をすることも多いから日に焼けるし、頭を使うより体を使う方が得意なので女らしい体のラインはしていない。
仙蔵の方がずっとずっと綺麗なのに。
口付けの合間にそう尋ねてみると、
お前が美しいと知っているのは私だけでいいのさ。
仙蔵はそう言って何とも妖艶に笑った。
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