未知との遭遇




「汚くてごめんね、まぁ適当にベッドにでも座ってよ」

藤原はにっこりと笑ってそう言った。

普通なら「そんなことないよ~」と勝手に口をついて出るだろうけど、この部屋はまさに惨状だったので僕はせいぜい口元を上げて笑顔を作ろうとするのがやっとだった。
特待生で、普通の学生より広い部屋を与えられているはずの彼の部屋が、何故こんなにも汚いのか今の僕には理解出来ないよ、藤原。

「すごいね…僕は足の踏み場もないって言葉を今正確に理解した気がするよ」
「ええ、そう?これでも片付けたんだよ?吹雪が来るから」
「…へえ…」

床は授業のプリントやたくさんの本で埋め尽くされ、所々パンの袋とか、お菓子のくずとかが落ちている。机の上はパソコンとその周辺機器のコードが絡まり、多分藤原にしか分からないような配線が幾足も延びてタコ足配線というかもうムカデ配線レベル。
カードとデッキだけはさすがにきちんと棚にしまわれているようだ。

「床に置いてあるのは基本踏んでいいものだから気にしないで」
「あ、そう…」

僕が何とかベッドにたどり着こうと奮闘していると、ふと見覚えのあるプリントが落ちているのが目に入る。

「これ、次のテスト範囲じゃん…」
「いらないよ、覚えたもの」

何が、とは聞かなかった。
どうせ彼のことだから教科書の内容くらい全て覚えてるのだろう。全部覚えてるのだから、テスト範囲がどこだろうと関係ないわけだ。

それにしても、自分と同じ造りの部屋であるはずなのに、ベッドがこんなに遠いとはね。
と思いながら見えるはずもない床を探していると、僕の視界の隅を、黒くて小さいものが素早く横切った。

「藤原…」
「どうしたの」
「なんだか見たくないようなものを見た気がするんだけど」
「え?」

カサッ

「あああほら!!いた!!」
「あ、最近よく出るんだよね」

藤原はその辺にあったプリントを数枚まるめ、バシッと迷わぬ動きで黒いものを仕留めた。
そのままにこやかな顔でこちらに向き直る藤原。

「吹雪ってば、まさかゴ」
「言わないで!」
「…リが苦手なの?意外だなぁ」
「こっちこそね!君はもっと繊細だと思ってたよ!」

まさか笑顔でGを叩き潰せるだなんて!イケメンすぎるよ藤原!

「お茶入れてくるから、ちょっと待っててね」

なんとかベッドにたどり着いた僕にそう言って、藤原は台所へ消える。
戸棚を引っかき回す音の合間に、あ、これ賞味期限切れてる…とかいう独り言が聞こえたけど、聞かなかったことにするのがきっとお互いのためになるだろう。


次の休みは亮も連れて来てこの部屋を完璧に片付けてやろうと、固く心に誓った。







Gが平気な藤原を書きたかっただけです